「仕事」でなく「仕業」を楽しむ職人でありたい/小宮製作所 代表 小宮賢人さん


 6ミリ以上の分厚い鉄板に下絵を描き、ガスバーナーから出る熱い炎を吹き付ける。アルファベット文字や複雑な漢字を一文字ずつ手作業でガス切断する。自ら名付けた「斬鉄(ざんてつ)」が唯一無二。世界にひとつしかないオーダーメイドのアイアン表札や看板を作る、この道28年の鍛冶職人がいる。

小宮製作所 代表 小宮賢人さん(小宮製作所 作業場にて撮影=鎌倉市=)

 鎌倉市鎌倉山の作業場で、バーナーを持つ手に精神を集中させながら一人黙々と鉄と熱い格闘を続けている姿が印象的な「ニュー鍛冶屋 小宮製作所」(鎌倉市)代表の小宮賢人(まさと)さん(45)=横須賀市=だ。
 自らを「ニュー鍛冶屋」と名乗る小宮さんが手掛けるのは、ヨーロッパ調ではなく、日本の現代の鍛冶職人らしい家や店舗の「顔」となる表札や看板。鉄の質感をいかしたシンプルな造形と耐久性と機能性を兼ね備えた棚やテーブル、燻製(くんせい)器のような調理器具まで多岐にわたる。

 デザインから製作・修理・取り付け作業まで、すべて小宮さんの手作業なのが特徴で、現代のライフスタイルに合った、機能的で存在感のある鉄製品が手に入ると評判を呼び、地元の湘南エリアや首都圏からも注文が増えているという。

 小宮さんがこれまで手掛けてきたオーダーメイドのアイアン表札と看板の数は、800以上。製作時間は1週間から2週間ほど。客の要望を聞きながら、イメージを膨らませて小宮さんにしかできない、世界でひとつのアイアン作品が生み出されていく。「納品した時に、お客さんが心から喜んでくれる姿を見るのが何よりもうれしい」と、小宮さんは話す。

ガスバーナーを使い、手作業でアイアン看板を製作する小宮さん。手元を安定させる姿勢を取り、精神を集中させて鉄を切っていく。

 京都で生まれ育った小宮さんが、鍛冶職人の世界へ足を踏み入れたのは、17歳の時。学校の勉強に興味が持てなかった小宮さんは、高校を中退。持て余したエネルギーを発散するかのように、バイクを乗り回す日々が続いたという。

 そんな小宮さんを見かねた父親が働き口として、知り合いの鉄工所を紹介。鉄工所で、溶接する作業を初めて体験した小宮さんは、「固い鉄と鉄が、熱を加えることで溶けて、くっつくことに衝撃を受けた」と、当時を思い出すのか、興奮ぎみに話す。
 広く薄暗い鉄工所の中で、火花を出しながら溶接され、別々の鉄がひとつになっていく面白さ、重い荷物が天井クレーンで吊り上げられていく、ものづくりの現場に心を奪われた。

 溶接・切断・研磨という一連の工程を経て、階段や扉など次第に大きな構造物ができ上がり、ビルなどの建物に使われ、それらが地図に残っていく…。ものづくりの仕事の醍醐味を鉄工所の日々で身体に刻み込んだ。

 鍛冶職人として道を極めると決意し、鉄工所で働き始めて4年目の21歳で主任に抜擢。やりがいを感じて仕事に没頭した。職人として順調に成長を遂げてきた小宮さんに、鍛冶の仕事で一番苦労した点を聞いた。「平面の図面から立体構造へと展開させることが一番難しい。職人の仕事は経験を積み重ねることでしか鍛えらない部分も多い」と、率直に答えてくれた。

 独立するまで鉄工所で職人としての基礎を学んだ10年の歳月は、小宮さんにとってどのような時間だったのだろうか。「肉体労働なので常に体はキツかった……でも、辞めたいと思ったことは一度もなかったです。肉体的な辛さ以上に、ものづくりの楽しさのほうが勝っていたのでしょう。鍛冶職人として独り立ちするための技術や知識、途中で諦めない忍耐力は、修業時代に培われた」と小宮さん。

 先輩職人たちは、修業時代の小宮さんをどのように見ていたのだろうか。「基本的に職人は多くを語りません。先輩からアドバイスをもらったというよりも、黙って見守っていてくれたという印象です。仕事の基礎は、先輩の後ろ姿を見て学び取ります。危険が伴う作業なので、現場は常に緊張感がありましたが、危険な時はすぐに先輩から注意の声がかかり、いてくれるだけで頼もしい存在でした」と、充実した修業時代を振り返る。

 入社から10年後の27歳で独立し、現在のようなデザインから製作までを手掛けるオーダーメイドと、オリジナルの椅子やテーブルなどの販売を始めた。デザインは独学で試行錯誤を続けながら身に付けたという。

 2006年に「FeNEEDS」(鎌倉市佐助1)を企業提携し、鍛冶の職人技をより身近なものとして多くの人に体験してもらうことを目的に、これまで京都で開催していた溶接教室をもとに「アイアンワークショップ溶接教室」の企画プロデュースを開始した。これを機に、京都から鎌倉へ活動拠点を移した。

 2008年からは、企業提携を完全終了し鎌倉山へ移り「小宮製作所」として自らの作品創作活動をスタート。現在は、アイアンオーダーメイドを中心に、玉川高島屋ショッピングセンター(東京都世田谷区玉川3)の総合カルチャーサロン「コミュニティクラブたまがわ」で、月2回「鉄・アイアン工房」と題して、定期的にワークショップを開き講師を務めている。鉄の持つ力強さと手作りの造形美を楽しみながら、鍋敷きやキャンドルスタンドなど、身近な暮らしの道具やアイアン雑貨を作ることができる。道具のない初心者でも溶接などを体験できる内容になっている。4月5日から始まる講座も人気で、継続して受講している生徒も多い。

小宮製作所の作業場に置かれている小宮さんの作品「MUGEN」(高さ約160センチ)。妊婦の女性が無限の握手で繋がっている姿を表現。風雨にさらされ、さびていく過程も「鉄」という素材ならではの味わいに


 最後に、今の時代に職人として生きていくことの誇りや喜び、そして、小宮さんを惹きつけてやまない「鉄」という素材が持つ魅力について聞いた。

「鉄はあらゆる金属の中でも、一番自然に近くて、人間にも近いと私は感じます。さびるのも自然にかえっていこうとする力です。鉄と向き合っていると、エネルギーを感じて、創作意欲がどんどんがわいてくる」と、生き生きとした表情で語る小宮さん。

 人からやらされることを連想させる「仕事」という言葉を嫌う小宮さんは、日々楽しみながら技術を鍛錬していく自らの仕事を、「仕業(しわざ)」と呼んでいる。

「職人として腕一本の技術で、うそ偽りなく自分の意志を貫いて生きていけることが、シンプルで幸せだ」と語る小宮さんの生き方そのものを表す言葉のように思える。

「修業して地道に身に付けた技術が誇りと自信につながる。確かな技術と発想があれば、海外でも仕事のニーズはあります。腕一本でどこでも生きていけるのが、職人の強み」と、職人を志す若者たちへエールを送った。

▽リンク
小宮製作所サイト
http://www.feneeds.com/

鉄職人 小宮賢人の世界
http://spatters.jp/masatokomiya/index.html

玉川高島屋ショッピングセンターの総合カルチャーサロン
コミュニティクラブたまがわサイト
http://www.cctamagawa.co.jp/circle/design_art/
小宮さんが講師を務める「鉄・アイアン工房」は、第1・3木曜日 13時30分~16時
4月5日から始まる講座の見学は可能。問い合わせは下記まで。
コミュニティクラブたまがわ事務局 TEL:03-3708-6125

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