開演前の「ドキドキ」が伝わるポスターの魅力を伝えたい /グラフィックデザイナー 中川憲造さん

by 宮島 真希子 | 2012年11月22日 1:45 PM

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グラフィックデザイナー 中川憲造さん (NDCグラフィックス=横浜市中区海岸通にて)

グラフィックデザイナー 中川憲造さん (NDCグラフィックス=横浜市中区海岸通にて)

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の応援マスコット犬キャラクター「ブルーダル」、横浜市「公式横浜ベイシティ交通マップ」…私たちが知らず知らずのうちに親しみ、目にしているこれらのデザインは、「株式会社NDCグラフィックス(本社・横浜市中区海岸通)が手がけている。約20年前、「横浜ランドマークタワー」のプロジェクトがきっかけで横浜に事務所を構え、みなとみらいの歴史とともに歩んできた同社代表取締役社長は、グラフィックデザイナーの中川憲造さん。中川さんは、仲間とともに実行委員会をつくり「伝えるデザインの力 ポーランドポスター展」(11月3日~12月3日、ヨコハマ創造都市センター)をプロデュースしている。長年、社会と人を見つめ、グラフィックデザインの力でその2つをつないできた中川さんに、展覧会への思い、みどころと今後について聞いた。

エネルギッシュで創造力豊かな
デザインの力で今の日本を元気にしたい

エネルギッシュなポスターが並ぶ「伝えるデザインの力・ポーランドポスター展」(ヨコハマ創造都市センター=横浜市中区本町にて)

エネルギッシュなポスターが並ぶ「伝えるデザインの力・ポーランドポスター展」(ヨコハマ創造都市センター=横浜市中区本町にて)

「150年前にペリーが来航した際、横浜を目指して来たわけじゃないと思う。長崎で、浦賀で、との交渉のさきに横浜となった。だが今や横浜はペリーなしには語れないでしょう? 今回のポーランドポスター展も、横浜でなければならないというわけではなかったけれど、この偶然性を大切にしたい」と中川さんは話す。
 2年前の夏、長年、ポーランドと日本両国のグラフィックデザインの交流に尽力して来た松浦昇氏から、日本で展覧会を開きたいと相談された。世界初のポスター美術館である「ヴィラヌフポスター美術館」が所蔵する世界に誇るポスターを、日本の多くの人にも見てほしいということだった。
 「1950〜60年代は、ポーランドの国土が第2次世界大戦で破壊し尽くされた後の困難な時代だった。また、共産主義体制下で社会的に抑圧されていたからこそ、デザイナーたちの描いた絵には、エネルギッシュで想像力豊かなアイデア、ポップな色彩があふれている。それらを見てもらうことで、今の少々元気のない日本の人たちに、ポスターから元気をもらってもらいたい」と中川さんは開催意図について語る。
「ポスターの役割は、音楽会でいえばプレリュードのようなもの。館内の音がもれ聴こえて来るようなワクワク感、演劇でいえば幕が開く直前のドキドキ感が伝わってくること。イベントのテーマの一端が見え隠れすることで、そこへ足を運びたくなる…ポスターの魅力を実感してほしい」と、中川さんは言葉を重ねた。
 松浦さんの相談から1年半、この3月にやっと会場が決まった。「ヨコハマ創造都市センター」は内部に素晴らしい空間をもつ歴史的建造物で、その空間を生かした展示構成をはじめ、告知ポスターのデザイン、ミュージアムショップ、レセプションパーティーに至るまで、アイデアを練った。「展覧会をデザインする」との考え方で、これらすべてをNDCグラフィックスが中心となり、運営することになった。

ポーランド文化に触れる機会を作って
ファンを増やしたい

 現状、日本とポーランドとの接点は少ない。だから、中川さんはポスター展と同時に、ポーランド文化を会場で感じてもらう工夫をしている。展覧会初日の11月3日には、ポーランドから招聘した「ヴィラヌフポスター美術館」館長による、ポーランドポスターの意義と魅力を語るギャラリートークを、また16日には日本を代表するグラフィックデザイナーを迎え、中川さんの司会によるトークショーが開かれた。さらに会期末の12月1日(土)にはポーランドの音楽デュオ、Sza/Za(シャザ)による、映画監督ポランスキーの映像にあわせてクラリネットとヴァイオリンが奏でられる演奏会も企画されている。予約不要、観覧券で参加できる。
 「レセプションパーティーのときに、声楽家・丸尾有香さんが披露した『森へ行きましょう』もポーランド民謡。ショパンをはじめ、実はポーランドの音楽は身近な存在」と中川さん。会場1階のカフェ&ショップでは、横浜の菓子メーカー「モンテローザ」に依頼したポーランド伝統菓子「ポンチキ」などを味わいながら、ポーランドに思いをはせることもできる。

YCCカフェで味わえるポーランドの伝統菓子ポンチキなど(ヨコハマ創造都市センター=横浜市中区本町にて)

YCCカフェで味わえるポーランドの伝統菓子ポンチキなど(ヨコハマ創造都市センター=横浜市中区本町にて)

つながりを「みえる化」するのがデザイナーの役割

 中川さんが初めてデザインという行為を実践したのは、中学生の時だった。クラスの学級新聞を毎週発行していた中川さんは、自ら記事を書き、タイトルを付けて、漫画も描いた。それが原点だという。
 ジャーナリストというのは、事件の経過を記事にするだけでなく、見えてない部分を掘り下げ、顕在化させる。「デザイナーも同じ。ものやこと、人の間にあるストーリーを見つけて、形にしていく。その『素(もと)』となるものは、隠れて散らばっていて、ふだんは見えない。それらを見つけ出し、かけあわせて形にする。様々な出会いを放っておくと何も生まれないけれど、意図的に仕掛けることで面白いものが誕生する」と、デザインの果たす力について語る中川さん。
 さらに「横浜は人や情報が交差し、新しいものが生まれていく可能性を秘めている都市。僕自身も異質なものの出会いを自覚しながら、デザインの力でその『化学反応』を促進したい」と中川さんは言う。
 今回のポスター展は「人との縁で、たまたま横浜で開催することになった“偶然の出会い”」。その偶然を大事にし「面白く変化させていくアイデアやプロセスが重要」だという。そしてポーランドから来たポスターを眺めるだけではなく「わたしたちが『この展覧会をどうデザインしたか』という視点でも、ぜひ見て楽しんでほしい」と話している。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の応援マスコット犬キャラクター「ブルーダル」もNDCグラフィックスによるデザイン(NDCグラフィックス=横浜市中区海岸通にて)

神奈川フィルハーモニー管弦楽団の応援マスコット犬キャラクター「ブルーダル」もNDCグラフィックスによるデザイン(NDCグラフィックス=横浜市中区海岸通にて)

【開催情報】
 中川さんディレクションの同展覧会ポスターは、元町商店街、馬車道商店街、各種交通機関の駅構内などに貼られており、神奈川県内はもちろん、全国各地より観覧客が訪れている。ただ美しいだけではない、メッセージ性が感じられる作品を集めた「伝えるデザインの力・ポーランドポスター展」は、12月3日(月)まで。11月24(土)・25 (日)各13時からは「クラシックヨコハマ サロンコンサート@YCC」などの関連イベント(どちらも入場無料)も行われる。

▽リンク
伝えるデザインの力・ポーランドポスター展
http://www.polandposter.jp/

NDCグラフィックス
http://www.ndc-graphics.jp

Source URL: http://kanamag.net/archives/52202