「地域から孤立した家の中で育つ子どもたちは、他者とのコミュニケーションを学ぶこともなく、あふれ返る情報の選択にも振り回され、物に執着し、メディアとは切り離すことのできない生活に依存しがちになります。他者の生活を知ることがない子どもたちが、大人になって社会に出たとしても、環境に適応できるはずがありません。社会人になる前に良い習慣を、ぜひ子供たちに与えてあげてください」。子育て中の保護者・地域サポーターに対して警鐘を鳴らすのは、2011年第5回「かながわ子ども・子育て支援奨励賞」を受賞したNPO法人「地域家族しんちゃんハウス」理事長の館合みち子さん(55)=大和市南林間7=だ。
NPO法人「地域家族しんちゃんハウス」理事長 館合みち子さん。同施設で撮影=大和市南林間7=
地域家族しんちゃんハウスは、「児童保育」や親子の交流イベントを企画・開催しているほか、子育てを支援する地域ボランティアを育成した功績が認められ、2011年10月に団体として第5回「かながわ子ども・子育て支援奨励賞」を受賞した。核家族化が進む現代において、地域をひとつの家族として位置づけ、「多様性に富んだ人間関係の中で、温かい子育て支援の輪を広げたい」と、地域に根ざした子育て支援活動を続けている。
子育て支援のエキスパートであり、地域家族しんちゃんハウスで、さまざまな親子の姿を見つめてきた館合さんに、子育てを見守る立場として大切にしていること、育児に奮闘中の親が楽になる子どもへの向き合い方について話を聞いた。
「私は子どもたちに、『ゆっくり、ていねいに、納得がいくように』と常に言っています。母親に余裕がなくて、すぐに子どもを急かしてしまうからです。本当に子どもにとって大切な、やる気や創造力は、ゆっくり時間をかけて育つもの。積み木を組み立てて、何度も作っては壊していくプロセスの中で想像力は育まれます。失敗や工夫をくり返す作業にこそ意味があるのです」と語気を強める。積み木のほか、料理など手順が必要な作業も、手先を使い自分で考える能力を育むのでとてもよいそうだ。
真剣な表情で、今日一日のできごとを振り返る子どもたち。毎日日記を書くなど、日々の繰り返しが思考能力を育てる(地域家族しんちゃんハウスにて撮影)
子育て中の親に対しては、「子どもが生まれたら、“早寝・早起き・朝ごはん”の習慣を身に付けて、生活のリズムを立て直すことが大事。ごはんの支度も電子レンジやレトルト食品を使うと便利ですが、一品でも手を掛けたものを作るように心がけてほしい。レトルト食品の『お袋の味』ではなく、愛情をたっぷり注いだ『おふくろの味』を」と話す。
また、地域で子育てを見守る人たちに対しては、「子どもが泣き止まない、おとなしくしていないなど、育児に苦労しているお母さんを見かけたりしたら、『大丈夫、大丈夫』といった声がけをぜひしてほしい。それだけでもお母さんは、気持ちがラクになる」と続けた。
地域から孤立した家庭内に子育てを囲い込んでしまうことを問題視する館合さんは、どのような懸念を抱いているのか?「親と子が一対一で向き合っていると、家の中に、強者と弱者の関係が生まれ、争いが起こりやすくなります」。向き合い過ぎて、親子で煮詰まり、親は子どもを責めてしまう。孤立し、煮詰まってしまった関わりで、子どもを育てるのは苦しい。「地域と関わりを持ち、親も子も、いろいろな人と接する中で育てる方が、子育ては結果的にもっとラクに楽しくなるはず」と館合さん。子育て中の保護者へ向けて、笑顔で心強いメッセージをくれた。
館合さんが地域家族しんちゃんハウスを始めたのが15年前の1997年。長男真輔君(当時小学4年生・10歳)が、交通事故に合い重度障害者となったことがきっかけだった。真輔君が亡くなるまでの3年間、援助者が介助しなければ生活をまったく行うことができない「全介助(ぜんかいじょ)」の状態が続いた。
その間、長男の同級生が見舞いや手伝いに来るなど、周囲の人たちに支えられて生活していたという。長男の介助を機に、自宅を新たに建設しバリアフリーに。館合さんは、地域に恩返しをしたいとの思いから、医療行為を生活行為として受け入れられるような団体として、医師などの協力を得ながら、重度障害者のための施設として運営をスタートした。
長男の死後、名前から一字を取って1997年「地域家族しんちゃんハウス」と名付けた。2003年にNPO法人格を取得し、現在に至る。
介助者としての経験がある館合さんは、障害者などが地域で普通の生活を営むことを当然とする福祉の基本的考えである「ノーマライゼーション」を、地域家族しんちゃんハウスの理念のひとつに掲げている。「ここでは、障害を持つ子どもも、お年寄りも、特別扱いせずに他の子どもと一緒に過ごしています。そうすることで、誰かがお世話をする側に回るなど、自然と助け合いが生まれる」と、館合さんは話す。
バリアフリーの室内で、のびのびと遊ぶ子どもたち。障害を持つ子どもも一緒に生活することで、自然と助け合う心が育まれている(地域家族しんちゃんハウスにて撮影)
地域家族しんちゃんハウスは、就園前の乳幼児を抱えた親子の子育て支援と小学生(児童)保育が活動の柱だ。
まず午前中は乳幼児と母親を中心とした子育て支援の「ベビーズルーム」となっている。絵本の読み聞かせをはじめ、ヨガなど親子で一緒に参加可能な体を動かす講座や、料理教室などを開いている。子育て中の母親など、同じ悩みを分かち合える育児経験者が講師となっているのが特徴だ。子育て中の母親の不安や悩みを和らげ、相談しやすい環境を作り、親子同士の交流を深めている。
もうひとつの役割である小学生対象の「児童保育」は、下校後の時間を安心して過ごせる、家のような場所になっている。共働きの夫婦も増えているため、利用者の数は年々増えているという。
また、大和市委託事業として、イオンモール大和(大和市下鶴間1)4階で、つどいの広場「こども~る鶴間」も運営している。ここでは、親子の交流のほか、子育てに関する相談業務・情報提供・講習をしている。
同じく大和市との協働事業として、2007年からスタートした子育てをサポートする人材の認定と普及活動「はぐくねっと」があり、PRと啓発のため年1回、大和市と共にイベントも実施している。
最後に館合さんに、今後の地域家族しんちゃんハウスの活動について聞いた。「毎月発行している『地域家族しんちゃんハウス通信』などを通じて、子育てについて日々感じていることと、啓発を促したいことを根気強く発信しつづけたい。そして、同じ志を共有できる仲間から、後継者が一人でも育ってくれたらうれしい」と、期待を寄せた。
NPO法人地域家族しんちゃんハウス
住所:〒242-0006 大和市南林間七丁目1番15号
電話:046-275-7955
<活動日時>
ベビーズルーム:10時~12時(日程はHPにて確認)
学童保育:小学校下校後~18時30分
こども~る鶴間:10時~18時(年末年始を除く毎日)
▽NPO法人地域家族しんちゃんハウスホームページ
http://www.shinchanhouse.com/
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