藤野電力の小田嶋電哲さん=相模原市緑区(旧藤野町)・牧郷ラボで
2011年3月に起きた東日本大震災と福島第一原子力発電所の原発事故は、それまで多くの人にとって「電力会社から送られてくるのが当たり前」で無関心だったエネルギーについて、再考を促すきっかけになった。
しかし、太陽光などの自然・再生エネルギーシステムに興味はあるものの、実際にどうすればいいのか分からないというのが本音ではないだろうか。そんな疑問を解くヒントになりそうな取り組みが、県北西端の相模原市緑区(旧藤野町)で進んでいる。
地域イベントで自然エネルギーを活用した電源を供給したり、太陽光発電キットを組み立てるワークショップを開いたりと、「自分たちでエネルギーをつくり、暮らしていく」という等身大の自給自足生活を提案するワーキンググループ・藤野電力。その中心メンバーの一人・小田嶋電哲(おだしま・でんてつ)さん(40)=同区在住=に、活動やこれからの展望について聞いた。
サラリーマン生活を経て藤野町に移住 「トランジション藤野」の活動に参加
小田嶋さんは東京・江戸川区出身。大学の法学部を卒業後、都内のIT関連会社などを転々とした。営業やコンサルタント、派遣の仕事も経験。「藤野に住む前は、エネルギーや電気とは縁もゆかりもない生活でしたね」と振り返る。初めて藤野を訪れたのは2004年8月。前年閉校した旧牧郷小を再生した「牧郷ラボ」でのアートフェスティバル「第1回ひかり祭り」だった。
「偶然チラシを目にして来てみたら、藤野に住む人たちがとても優しかった。面白いな、良い所だなという印象を持ちました」。イベントを楽しむあまりJR藤野駅の終電を逃し、タクシーの営業時間も過ぎて困っていた小田嶋さんを、会場から地元の民宿までマイカーで送ってくれた人がいたという。
豊かな自然や地域住民の人柄にひかれ、その後は週末などに頻繁に訪れるようになった。田舎での暮らしに興味があったこともあり、長女の就学を翌年に控えた2007年、藤野町(当時)に移住した。
イベントに参加するにつれいろいろな人に出会い、つながりができた。自ら踏み出して藤野地域で持続可能なまちづくりを目指す団体「トランジション藤野」の活動に参加するようになったという。「もともと、哲学的に物事を考えるのが好きな性格。『トランジション』の、大きなものに依存せず自分の心に向き合って今の生活を少しずつ変えていく、一人一人が変わることによって、まち全体もゆるやかに変わっていく。そんな思想が気に入りました」。
「トランジション」は「移行する」という意味。藤野では「今ここから、楽しく、やれることからやっていこう」と、地域通貨や森づくり、百姓クラブなどのワーキンググループ(WG)が活動している。小田嶋さんは通勤時間およそ1時間半の都心の会社勤めをする傍ら、週末は興味のおもむくまま、いろいろなWGに顔を出し、藤野での生活を楽しんでいた。そんな矢先の2011年3月、東日本大震災が起こった。
旧牧郷小校舎を再生した「牧郷ラボ」。地元在住アーティストのアトリエやギャラリーとして活用され、藤野電力の活動拠点にもなっている
3・11を機に生まれた「藤野電力」構想
大地震・大津波にもショックを受けたが、原発事故のニュースは衝撃的だったという小田嶋さん。電力会社の独占的な発電から、地域でエネルギーを創るしくみにシフトする「藤野電力」という言葉は、誰ともなく、トランジション藤野のメーリングリストに事故後すぐ上がった。同年5月には最初の会合を開催。「できるか、できないかにこだわらずやってみよう」と気運が盛り上がった。
初めは、藤野電力の活動にあまり興味を持てなかった小田嶋さん。しかし同年8月に開く「ひかり祭り」の準備を進める中で、「自然エネルギー100%」をテーマに電源担当として運営にかかわることになり、気持ちが吹っ切れた。「自分たちで電気を創って使えば、イベントも後ろめたい気持ちなくできるんだ、と前向きになれました」。会社を退職し、藤野電力の活動に専念することにした。
大学の研究者から譲り受けた約170枚の太陽光発電パネル。「これを活用して、牧郷ラボを100%自家発電施設にしたい」と意気込む=牧郷ラボで
エネルギーの自立 地域でつくり、地域で消費
藤野で開かれる地域の最大イベント「藤野ふる里まつり」に10月、藤野電力として出展した。試みに「ミニ太陽光発電システム」の組み立てワークショップを実施したところ「電気のことはよく知らなかったけれど楽しい」と好評を得た。そこで2011年12月から、牧郷ラボで月1回、定期的にワークショップを開催するまでになった。
組み立てキットは太陽光発電パネル・バッテリー(蓄電池)・インバータなどわずか5点。これらを配線で正しくつなげば、電力会社に頼ることなく自分で電気を作り出せるという仕組みだ。価格はワークショップ代込みで4万2800円。1日当たりの発電量はおおむね200~300ワットで、目安としてノートパソコン4~6時間、蛍光灯形電球なら10~12時間使えるという。ワークショップ参加者からは「意外と簡単に、電気はつくり出せるものなのだ」という声が多く上がるという。
いきなりすべてのエネルギーを自分でまかなうのは無理だが、パソコンや携帯電話の充電をするのには十分な太陽光発電システム。今年からは、藤野地域の個人宅に藤野電力のソーラーシステムを設置する取り組みも始めた。
電力会社から送られてくる電気のスイッチの横に、藤野電力のスイッチを取り付ける。「家の中のコンセントのどこかが、ソーラーシステムで発電した電気になる。実際の使い勝手も良いと評判です」と小田嶋さんは胸を張る。
今後は、7つの教室が地元在住のアーティストたちのアトリエやギャラリーとなっている牧郷ラボ(延べ床面積778平方メートル)を、すべて自然エネルギーの独立電源にするのが目標だ。いずれは同様の拠点を藤野地域に数か所設置することも思い描く。「規模は小さくていい。住民の手でつくりあげていくことを大切にしたい」
地域の資源を生かし、エネルギー自給率をさらに上げていくことで、藤野がより魅力的なまちになればいい-。小田嶋さんは藤野電力を通して、未来を見つめている。
【関連記事】相模原市緑区で12/15、「ミニ太陽光発電システム組み立てワークショップ」が開かれます(かなマグ.net 2012年12月11日)
http://kanamag.net/archives/53093
【関連動画】ドイツのドキュメンタリー映画「第4の革命」、相模原市の上映会は100%自然エネルギー発電で開催します!上映会後には参加者同士のディスカッションタイムも(かなマグ.net 2012年2月27日)
http://kanamag.net/archives/31844
▽藤野電力
http://fujinodenryoku.jimdo.com/
▽トランジション藤野 facebookページ
https://www.facebook.com/ttfujino
▽NPO法人トランジション・ジャパン
http://www.transition-japan.net/
▽藤野観光協会
http://info-fujino.com/
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