大好きなアートのためなら、夢を追い続けられる/「真鶴アートミュージアム」館主 福田晃子さん


相模湾を一望する真鶴半島の高台に「真鶴アートミュージアム」(足柄下郡真鶴町真鶴1200)が、オープンして約半年。震災の影響で一時は開館が危ぶまれた小さな美術館を、アートへの熱意で開設にこぎつけ、たった1人で運営しているのが館主・福田晃子さん=湯河原町=だ。人を感動させるアートのエネルギーを信じ、この拠点から子どもたちへ・地域の人たちにその魅力を伝える「出張美術館プロジェクト」も始まっている。福田さんにこれまでの経緯・アートへの思い、地域とのつながりについて聞いた。

美術館は、築約50年の2階建て木造旅館を改装した建物で、広間と小部屋2つ、離れ2つがある。客は、玄関で靴を脱いでからそれぞれの部屋の引き戸を開けて、探検するような気分で、有名なアート作品を間近に鑑賞することができるのが魅力だ。2階で営業するカフェ「マダム・ケイ」では、手づくりケーキや飲み物、ランチも楽しめ、観光客や地元の人たちの憩いの場となっている。
展示作品は、岡本太郎の河童像などのオブジェや絵画作品が中心。その他に、林武や田崎広助などの日本の洋画家の作品から、ガレ、ルノワールなど西洋の美術工芸品まで、時代や国境を越えた多種多様な作品を常時100点ほど展示している。

真鶴アートミュージアム館主 福田晃子さん。同ミュージアム(真鶴町1200)館内にて撮影

「美術館で働く」という8年越しの夢をかなえた福田さんとアートの出会いは、高校時代だ。当時、福田さんは「自分の力で生計を立られるように」と、薬剤師を目指して受験勉強をしていた。

しかし、薬にも医療にも興味が持てなかったため「このままでいいのだろうか」と、進路に迷っていたという。

そんな時、福田さんは高校の授業の中でフランス「オルセー美術館」のビデオを見た。美しい音楽とともに目に入ってきた美術館の作品の数々。「こんなに美しい世界があったのか」と、見とれてしまったという。美術館で働きたいという思いが次第に高まり、学芸員の資格取得をめざして進路を変更。東京女子大学へ進学した。

卒業後は、美術館で働くことを夢見て、日本各地にある美術館に、100件以上履歴書や手紙を送り就職活動に励んだが、狭き門の学芸員の職を得ることができなかった。美術館などでアルバイトをして経験を積み重ねながらも、福田さんは、好きなアートの世界で学芸員として働きたいという夢をあきらめきれず、募集の告知を見つけては、条件反射的に履歴書を送り続けた。「働きたいという熱意は人一倍ありながらも、自分の年齢が上がるにつれて、募集条件から外れてしまうことが一番辛かった」と、日に日に焦りが募っていた当時を振り返る。

福田さんに転機が訪れたのは、31歳の時。2010年からアルバイトとして働いていた「人間国宝美術館」(湯河原町中央3)が、2つ目の美術館として「真鶴アートミュージアム」の開設準備を進めていた。福田さんは新しくオープンする同ミュージアムの学芸員として採用が決まり、改装作業などを手伝っていた。

そのミュージアムの完成が間近に迫った3月11日、東日本大震災が起きた――。

地震直後の真鶴町内は、他の観光地同様、人出が激減。美術館への集客が見込めないなどの理由から「真鶴アートミュージアム」開館が白紙になった。「学芸員として働く夢がようやくかなう」と意気込んでいた福田さんは、どうしてもこのチャンスをあきらめることができなかった。

オーナーの山口伸廣さんに粘り強く「ミュージアムを存続してほしい」と訴え続け、根負けした山口さんから「そこまで言うなら、おまえが自分でやってみろ。本気でやるなら任せてもいい」という言葉を引き出した。31歳の美術館長の誕生だった。

資金も経験もないゼロからのスタート。福田さんは、草むしりから展示の準備・美術館の案内・営業・経営まで、すべて1人でやっている。「毎日が手さぐり状態…わからないことは、大学時代の恩師や先輩の学芸員などに相談し、助けてもらっている」と謙虚に語る。

美術館を訪れる客は、オープンするまでの苦労話を新聞などで見ている場合が多く、若き館主に「がんばって!」と、心強い励ましの声をかけてくれるという。「相模湾と原生林が見える2階からの眺めがよかった」「和室でルノワールが見られるミスマッチな展示がおもしろい」など、評判も上々のようだ。

岡本太郎の河童像をモチーフにしたイラストを使った対話形式のわかりやすい作品解説も、福田さんによるもの。豆知識が得られて、わかりやすいと好評だ。

真鶴アートミュージアムは、12月28日から来年の3月9日まで、冬季休館に入る。この期間中、福田さんは「出張美術館」と題して、県外3カ所を巡業する予定だ。

なぜ、美術館が「出張」するのか?福田さんにとって、出張美術館は真鶴の看板を掲げて県外へ飛び出すことを意味し、真鶴の観光PRも兼ねている。「美術館のない地域に展示物を持ち込み、アートの楽しさを伝えるのが目的です。

また、真鶴アートミュージアムを立ち上げた経験を生かして、美術館を町につくりたいという人がいれば、相談にも応じたい」と、地元の地域活性化の一助になりたいという福田さんの願いがこの事業には込められている。

2012年1月14・15日は、「さいたま学園第二まこと幼稚園」(埼玉県さいたま市北区日進町3)で、同月21・22日は、東日本大震災被災者の仮設住宅で暮らす住民同士の交流や憩いの場として建設中の「交流カフェもみの木」(福島県いわき市中央台高久)で、翌2月2〜5日は、「函館市立的場中学校」(北海道函館市的場町1)でも出張美術館を行う予定だ。
各会場ともに参加無料。学校では図書館などに展示スペースを設ける。絵画・工芸・彫刻など、その地域の特徴に合わせ、趣向を変えた展示を考えている。

被災地の福島県に「出張」することについて福田さんは、「仮設住宅に入ると生活が単調になりがちで、心の張り合いや人とのつながりを失うと聞いて心配している。こういうつらい時こそ、アートが心の支えになると思うので、ぜひ多くの人に見てもらいたい」と、話している。

逆境にめげず、チャレンジ精神で場を切り開いていく福田さんの「出張美術館」の取り組みは、アートを楽しむ人たちの裾野を広げ、多くの人に夢と希望を与えてくれそうだ。

真鶴アートミュージアム
住所:足柄下郡真鶴町真鶴1200-18
電話:0465-43-6783
開館時間:10時~16時30分(入館は16時まで)
入館料:700円(コーヒー付セット1,000円)
休館日:木曜日
※美術館の年内営業は、12月27日まで。来年は3月10日から営業開始(12月28日~2012年3月9日まで冬季休館)
※カフェ「マダム・ケイ」の定休日は、水・木曜日。年末年始の休業以外は冬季期間中も営業

▽リンク
真鶴アートミュージアムサイト
http://manaduru-art.jp/

「真鶴アートミュージアム」外観。入口にある岡本太郎の河童の像が目印

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