箱根は“宝の山”だということを、外国人が教えてくれた「富士箱根ゲストハウス」代表 高橋正美さん


 11月5日、神奈川県小田原合同庁舎で行われた「黒岩知事との“対話の広場”(地域版)」 に、外国人観光客向け民宿を営む「富士箱根ゲストハウス」(箱根町仙石原)代表 高橋正美さん(63)=箱根町仙石原=が登壇した。

「富士箱根ゲストハウス」代表 高橋正美さん。日本の象徴である「富士」は、日本の宝。宿の名前に欠かせなかったと話す。「民宿は、ライフワークの国際交流の延長」だという

 部屋数14、定員52人の小さな宿ながらも世界にその名を知られる人気の宿として、世界59ヵ国から年間約9,000人もの外国人観光客を受け入れ、国際交流を長年にわたって行ってきた取り組み事例などを発表した。

 同ゲストハウスは、2008年、米国のコーネル大学がアジア地域において初めて実施した「ホスピタリティ産業調査」において、名だたる日本の有名ホテルと肩を並べて「Best Practice Champion」に選ばれた。同大学は、ホスピタリティ産業に特化した、世界で最も先進的なマネジメント教育機関。高橋さんのゲストハウス運営は、国際的にも高く評価されている。

 その実績から高橋さんは、2009年に国土交通大臣が任命した「VISIT JAPAN大使」の一人に選ばれ、現在は国をあげての外国人観光客誘致の取り組みや、インフラの整備など受け入れ態勢の向上にも努めている。

 高橋さんは横浜生まれ。現在民宿を営む箱根町仙石原へ移り住んだのは12歳の時だという。立教大学卒業後は、地元の箱根町役場に勤め、もともと興味があった英会話を生かせる英語教育研究所へ転職した。

 転機は34歳の時。ホームステイによる市民レベルの国際交流を進める非営利団体「フレンドシップ フォース」のスタッフとして、米国で2週間、民間家庭に滞在した。

 滞在した家庭は、敬けんなクリスチャン。食事の前には必ずお祈りがあり、宗教が生活に根づいていることを知って感動したそうだ。家族を迎えるような気持ちで外国人観光客を受け入れ、ありのままの日本の姿を紹介したいとの思いで、民宿を始めて26年になる。現在働いているのは、高橋さんと妻、長女とスタッフ3人の計6人だ。

 同ゲストハウスのもてなしが、国際的に高い評価を得ている理由が3つある。国際交流・文化交流・教育交流という3つの分野で「交流」が体験できる点が挙げられる。

 その舞台となっているのが、「国際交流ラウンジ」と名付けられたゲストハウスにある広間だ。ソファ席ではリラックスした雰囲気の中で、気楽に外国人旅行者たちと会話を交わすことができる。

 また、英会話習得や日本文化の紹介に関心がある日本人を、外国人客に紹介しているのも特徴だ。華道・茶道をはじめ、日本舞踊や和楽器・折り紙などの日本文化を披露する機会を提供し、日本ならではの旅の思い出づくりを演出している。

ゲストハウスにある「国際交流ラウンジ」で、折り紙を教える様子。アッホームな雰囲気が宿の魅力になっている。スタッフ全員が英語で対応できるのはもちろん、仏語や中国語を話せる者もいるため、日本を初めて旅する客も安心して過ごすことができる

「国際交流というと、英語が苦手と言って、外国人とのコミュニケーションを避ける日本人が多いですが、彼らは、私たちにそんなことを期待していません。ジェスチャーで補えば十分思いは伝わるものですよ」と、高橋さんは背中を押す。

「外国人に披露できるような日本の文化を身につけていない場合は?」との質問に、「ぜひ日本語を教えてあげてください。それが、彼らにとってはうれしいお土産になる」と、高橋さんは笑顔で答えてくれた。

 高橋さんは近隣の小学校で20年前から出張教室を行っている。民宿を営む過程で学んだ、異文化コミュニケーションの方法や、自分の個性を生かした、もてなしのノウハウなどを、未来の国際社会を担う子どもたちのために役立てる目的だ。また、10年前から大学生のインターンの受け入れも始めた。

 自治体の財源が乏しくなっている今、観光の目的は“ハコもの”と呼ばれる観光施設めぐりから“人とのつながりづくり”へと移り変わっている――。
 
 人と人との出会いが重視される時代だからこそ、「住民一人ひとりの日々の幸福度を上げることが大切になってきます…そして、その幸福度を他県へ、世界へと発信していくことが、人を引き付ける魅力になっていく」と、将来を見据えて、高橋さんの語気は熱を帯びる。

「自分の暮らす土地に誇りを持ち、住民がいきいきと幸せに暮らすために、今最も必要と思うのは、子どもたちに対する観光教育です。例えば、“外国人がなぜ箱根を訪れるのか?”という問いを考えることは、自分の住む街の魅力を再発見していくこと、地域に対する誇りを持つことにつながります。英会話・社会科・人への思いやりといった道徳など各科目に観光教育の視点を取り入れ、総合的に学んでいくことが必要です」と続ける。

 さらに高橋さんは、「思いやり優先の観光」を提唱する。これまでの経済優先ではなく、思いやりを優先した観光にシフトするとはどういうことか?「外国人観光客から寄せられる不満の声を真摯に受け止めて、誰にでも優しい、わかりやすい…そういう開かれたまちづくりをしていくこと」と高橋さん。それはまた、「住民の幸福度を上げることにつながる」と、高橋さんは信念を持っている。

 開国の地として、海外からの新しい文化を受け入れ、発展してきた歴史がある神奈川――。

 だからこそ、第2、第3の“開国”を他県よりもいち早く掲げ、小・中学校に観光教育を導入して未来の国際社会を担う人材を育成し、その学びを住民参加型の暮らしやすいまちづくりにつなげる、これまでにない観光のあり方を考える必要がありそうだ。

▽リンク
富士箱根ゲストハウスホームページ(日本語)
http://hakone.syuriken.jp/Jhakone/

富士箱根ゲストハウスホームページ(英語)宿泊客からの感想メッセージがたくさん書きこまれている
http://hakone.syuriken.jp/hakone/

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