障害者の職場定着を支援するボランティア「かなジョブエール」1期生の北野明美さんに聞く


9月26日から10月5日まで、かながわ労働プラザ(横浜市中区寿町1)をメーン会場に「障害者ジョブコーチ養成講座」が行われる。同講座は神奈川県が主催し、NPO法人障害者雇用部会に委託して実施する。企業等の従業員が自社の障害のある方を支援する「企業内育成型ジョブコーチ」と、障害のある方の職場定着を支援するボランティア「かなジョブエール」を養成する目的で、2009年度から始まった。3回目となる今年は、定員10人を大きく上回る31人の応募があり、18人が受講する予定だ。

講座は6日間で、障害者雇用の現状や問題点をはじめ、障害者雇用企業の雇用管理や指導方法などを学ぶ講義が3日間と、県内特例子会社および福祉施設での実習の3日間に分かれている。講座修了者には修了書が交付され「かなジョブエール」として登録することができる。

「かなジョブエール」は、神奈川県障害者就労相談センター(横浜市中区寿町1)の依頼に基づき職場へ訪問し、障害者本人や事業所の担当者から話を聞くなど職場定着を支援している。派遣費用は無料。県が交通費相当額を「かなジョブエール」に支払う仕組みになっている。

現在、2009年度、2010年度の修了者11人が「かなジョブエール」として活動している。講座を修了した1期生の北野明美さん(52)=平塚市=に、ボランティアを始めたきっかけや、実際の活動を通じて感じたこと、今後の抱負について聞いた。

「かなジョブエール」1期生として活躍する北野明美さん。障害者は一人ひとり個性が違うので、やさしい人、力強く励ませる人など、いろいろなタイプのボランティアが必要だと語った。=横浜YWCA内にある「花花カフェ」にて撮影=

北野さんのボランティア歴は約10年。3人の子どもを育てる母でもある北野さんは、長女の中学校の同級生が不登校になったことをきっかけに、心の病や心理学などに関心を持ち、地元のボランティア講座を受けたという。

その後、地域の精神保健福祉ボランティアグループ「こんぺいとう」(平塚市八重咲町14)に所属し、精神障害者を支える仲間となり、社会参加を促進することを目的に食事をしたり、話を聞いたりするサロン活動を月2回ペースで10年間にわたって続けてきた。また、国際NGO団体「横浜YWCA」(横浜市中区山下町225)1階にある「花花カフェ」の店長として週2回、精神障害を持つ女性たちの社会適応訓練を見守る活動にも携わっている。

北野さんは、障害者の就労研修の付き添いボランティアをしていた神奈川県精神保健福祉センター(横浜市港南区芹が谷2)で紹介され、2009年度「障害者ジョブコーチ養成講座」を受講したという。実際に「かなジョブエール」としてボランティア活動を始めて2年目の北野さんは、長年心の問題に寄り添い経験も豊かで、きめ細やかなフォローをしてくれることから県障害者就労相談センタースタッフからの信頼も厚い。報告書を届けに行く際、スタッフに呼び止められ相談を持ちかけられることも多いそうだ。

「障害者はひとくくりにできるものではなく、一人ひとり性格や抱える問題、能力もそれぞれ違うので、いろいろな障害を持つ人に会うことで、自分自身学ぶことが多い」と話す。また、就労することの不安を一緒に分かち合い、定着するまでのさまざまな問題を乗り越えて企業の担当者から日々の成長ぶりを聞けることが、わが子の成長を見るようでとてもうれしいという。

神奈川県における障害者の民間企業雇用率は平均で1.62%(2010年6月現在、出典:厚生労働省 2010年 障害者雇用状況の集計結果 )。障害者雇用を積極的に進める優良企業もあるものの、多くが法定雇用率「1.8%以上」を下回っているのが現状だ。障害者と雇用する企業の両者の声を現場で聞いている北野さんの目には、今の現状はどのように映っているのだろうか。

「障害者雇用に理解のある企業のトップも増えていて、共に働き温かく見守ってくれる社員の方には心から感謝しています。障害者雇用に踏み切れない企業には、雇用の実例やサポート体制をもっと知ってもらい理解を深めてほしい」と語った。それと同時に、障害者が終日働くのが難しい場合は2名ペアで雇って半日ずつ出勤するなどフレキシブルな雇用体系の導入や、民間企業だけではなく市役所など公的機関の積極的な障害者雇用など、今後の障害者雇用へ期待することを率直に語ってくれた。

「どんな、かなジョブエールに?」という問いに、北野さんは「障害者に寄り添い、困った時に振り向けば『いる』と思ってもらえるような信頼関係をつくることを大切にしたい」と抱負を語る。また、障害者・雇用企業・県障害者就労相談センターとの連携が円滑になるように、報告書では伝えきれない細かなニュアンスは「顔と顔を合わせて対話することを心がけたい」と語った。

9月は「障害者雇用支援月間」。かなジョブエールを派遣している県障害者就労相談センターは、制度的支援や障害者雇用の実例などの情報を啓発冊子「ともに歩む」にまとめ、希望する企業などに配布しており「障害者雇用をさまざまな施策でサポートするので、関心がある企業はぜひ問い合わせてほしい」と呼びかけている。
問い合わせ先:神奈川県障害者就労相談センター:TEL 045-633-6110

▽リンク
神奈川県障害者就労相談センター
障害者雇用啓発冊子「ともに歩む」(神奈川県ホームページ)
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f3767/p71521.html

障害者雇用啓発冊子「ともに歩む」

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