10年先を見据えて「箱根九頭龍の森」を“癒しの森”へ再生したい-NPO法人フォレストフリーク代表理事 緒方秀行さん


 プリンスホテルが経営する複合リゾート施設「箱根園」から約1キロ。芦ノ湖湖畔に、約10ヘクタールの「箱根九頭龍(くずりゅう)の森」(箱根町元箱根)が広がっている。縁結びや商売繁盛の神様として近年人気を集めている九頭龍神社まで、森の入口から歩いて約5分の距離。参拝ルートを含む散策路は、森を縫うように設けられている。

 「箱根九頭龍の森」には、赤い木肌が特徴の落葉広葉樹「ヒメシャラ」をはじめとする美しい樹形の高木が自然に近い状態で残され、「癒しの森」をコンセプトとした箱根のネイチャースポットとして、観光客の目を楽しませている。

「箱根九頭龍の森」は、1971年から約40年にわたり「箱根樹木園」の名で長年親しまれてきたが、広大な面積の森林の管理は難しく、近年10年間は慢性的な手入れ不足に陥っていた。
 木々の根元から散策路までササが覆い尽くし、路傍の花も咲かない真っ暗な森と化した旧・箱根樹木園を「癒しの森」に復活を託されたのが、森林再生を手掛けるNPO法人「フォレストフリーク」(横浜市港南区)だ。

 フォレストフリークは、荒廃した森に価値を見出し、10年先の健康な姿を想定した手入れを請け負っている。NPO法人ながら「森林再生のプロフェッショナル」を目標とし、常に技術向上に努める姿勢は、プリンスホテルからの信頼も厚い。代表理事の緒方秀行さん(52)=横浜市港南区=に、「箱根九頭龍の森」の植生の魅力や、現在の手入れの状況、今後の抱負などを聞いた。

箱根九頭龍の森にある、珍しい落葉広葉樹「ヒメシャラ」。赤い木肌が美しい


 フォレストフリークが、プリンスホテルの依頼を受けて旧・樹木園を調査したのは2009年。森の地面にあたる「林床(りんしょう)」がササに覆われていたものの、珍しいヒメシャラをはじめ、ケヤキ、ミズナラ、イタヤカエデ、オオモミジ、スギ、ヒノキなどの大樹が多いことがわかった。胸の高さの幹回りが300センチを超す「巨木」も12本含まれていた。

 芦ノ湖畔に樹形の美しい大樹が林立する森は、森林散策や森林観察に適していることから、再生コンセプトを「癒しの森」と定めた。
 10年先を見据えた再生策として、フォレストフリークは、プリンスホテルに「箱根九頭龍の森」への改名も含めた森林施業計画を提案。森を切り崩していくような人工的な公園整備ではなく、元々あった樹木を大切にしたプランがプリンスホテルに受け入れられ、ササ刈りによる林床植生の回復から本格的な手入れが始まった。この計画のスタートに合わせ、2010年3月、フォレストフリークはNPO法人格を取得した。

 緒方さんが、会社員として忙しく働くかたわら、東京都あきる野市周辺で山仕事にのめり込んでいったのが15年前。神奈川県内の森林荒廃をテーマにした新聞連載記事を通じて、みずからの暮らしのあり方と森林の荒廃が深く関わっていることを知り、衝撃を受けたことがきっかけだった。
 森林ボランティアとしての活動は週末に限られていたが、命の危険を伴う山仕事の現場は、アマチュアでは務まらないと一念発起。プロの技術を習得すべく、民間の林業会社で約1年間修業。愛知県で女性林業家として活躍していた故・大橋和子さんのもとにも見習いとして修業に通いながら、林業の基礎を学んだ。

チェンソーで、伐倒した直径60センチのコナラを玉切るNPO法人フォレストフリーク代表理事の緒方秀行さん

 故・大橋さんの所有する50年生のヒノキの山を一人で5ヘクタール間伐するなどの体験を通して、山仕事の知識を学び、伐採や下刈りの腕を磨いた。「山仕事に汗していれば幸せ」という仲間とも出会い、任意団体として1997年秋にボランティア団体「フォレストフリーク」を立ち上げた。以来、厚木市や鎌倉市など手入れ不足に陥っていた森林の再生に取り組んできた。これまで現場で培った技術と知識を礎に、森林再生を加速させる目的でNPO法人化に踏み切ったという。

 林業をめぐる経済環境の変化で人の手が入らなくなったスギ・ヒノキ林や、かつて薪(まき)や炭の供給源だった雑木林の、森ごとの個性や価値を見つけ、その森に適した再生計画を立案し、自ら施業することで「優良材の生産」や「健康な美しい森」へと導く活動を続けている。

 現在は、緒方さんを筆頭に、フォレストフリークメンバー10人ほどが月に2回ペースで、「箱根九頭龍の森」に手を入れている。2010年から始まった計画では、約2年間かけて、九頭龍神社周辺を中心とする散策路周辺のササ刈りを行うだけでなく、森林内で観光客の回遊を促すために湖畔のお休み処を再整備する予定となっている。幹が折れたり、枯れたりして倒れる危険のある「枯損木(こそんぼく) の伐採も同時に続けており、安全面も向上しているそうだ。

「芽吹きのころに明るくなった森の中を歩けば、湖畔のきらめきとともに、“森のほほえみ”を実感できます。巨木には樹名板も設置したので、巨木を探し歩いても楽しいですよ。5月以降は、ハコネサンショウバラや、ヒメシャラなどの花と出会える可能性もあるので、ゆっくり歩いて鑑賞してほしい」と、森の見どころを語ってくれた緒方さん。
 このほかにも、この地域に自生するハコネサンショウバラを増殖させるため、実生(みしょう)・種子・挿し木の3種類で後継種を育成し、現在50株にまで増やしている。数年後には、「ハコネサンショウバラ園」を森林内に植え付ける計画となっている。

 また、園内で伐採された桜の大木の余分な枝などは、雨で土が流れないように土止めとして利用されているほか、除伐(じょばつ)された木材は、逗子市立逗子小学校(逗子市逗子)でも木馬と丸太椅子の材料として使われている。同小はコンクリート打ちっぱなしの鉄筋コンクリート3階建て校舎で、木材がほとんど使われていないことから、同小の神田寛校長が「木のぬくもりを子供たちに伝えたい」と、フォレストフリークに木馬と丸太椅子の素材を提供してほしいと依頼した。

 木馬用にはケヤキ、丸太椅子用はスギを素材として提供し、いずれも神田校長が手作りした。2011年10月に完成し、子どもたちは座ったり、乗ったり、木のぬくもりを肌で感じて楽しんでいる。

 木馬の胴体部分は直径約40センチで、微妙な曲がりや膨らみのあるケヤキ材を選び、頭部や手足はケヤキの枝を切ったものを使用。シカの角はサクラの枝を使った。丸太椅子は50年生のスギで、「子どもたちに喜んでもらえてうれしい」と、緒方さんは目を細めた。

箱根九頭龍の森のケヤキを利用した木馬(逗子市立逗子小学校=逗子市逗子=にて撮影)

 
 今後の「箱根九頭龍の森」の取り組みについて緒方さんは「伐採した木材を活用し、木馬や丸太椅子を製作するほか、箱根九頭龍の森のファンを増やすためのコンサートなどを計画している」と話す。
 「箱根九頭龍の森」を担当する「箱根園」園地営業リーダーの草野正さんは、「フォレストフリークのメンバーによる、地道な手入れによって、樹木が見違えるほど生き生きとしているのが、何よりもうれしい。今後は、箱根九頭龍の森の魅力をもっと多くの人に知ってもらえるように、夜の森散策など宿泊プランと合わせた企画も考えていきたい」と、集客スポットとして期待を寄せる。

「箱根九頭龍の森」の営業期間は、通年営業。営業時間は9時~17時。(※季節により営業時間変更も)入場料:大人500円/こども250円。遊歩道や舗装道が整備され、車いすでも散策できる。森林浴やウォーキングに最適。芝生の広場は面積2万平方メートルあり、お弁当を広げてピクニックを楽しむことができる。ペットの散歩も可能。

▽リンク
NPO法人フォレストフリークホームページ
http://www.ac.auone-net.jp/~tf0freak/index.html

▽「箱根園」ホームページ 箱根九頭龍の森
http://www.princehotels.co.jp/amuse/hakone-en/watch/kuzuryu.html

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