高校を中退したり、不登校になったりと「回り道」している若者たちが、服飾・ファッションの知識を学び、実践的な縫製技術を身につけながら、高校卒業資格も取得できる「ユニバーサル服飾高等学院」(川崎市多摩区登戸2130)が、2012年4月7日開校した。
校長は、同学院の母体となる創立64年の洋裁学校「登戸ドレスメーカー学院」副校長・「アソシエCHACO」代表の栗田佐穂子さん(66歳)=川崎市多摩区=だ。栗田さんは、優れた芸術感覚と熟練した縫製・仕立ての技能を生かし、年齢や体型を問わず、障害を持つ人や療養中の人なども、誰でも脱ぎ着しやすい服である「ユニバーサルファッション」を研究・開発する先駆者としても活躍してきた。
服飾全般の教鞭をとる傍ら、ユニバーサルファッションの書籍を執筆するなど、広く技術の普及と後継者育成に努めていることが認められ、洋裁・介護服の職種で、2002年に川崎市から「かわさきマイスター」に認定されている。
「ユニバーサル服飾高等学院」校長 栗田佐穂子さん。同学院で撮影=川崎市多摩区登戸2130=
「ユニバーサル服飾高等学院」のコンセプトである「生きる力を身につける」 は、栗田さんが「登戸ドレスメーカー学院」で、40年以上に渡って服飾教育に従事してきた中で生まれたという。
同学院で学んでいるのは、中学卒業後の生徒から社会人まで幅広い。「洋服やバッグなどを手作りしたい」と、趣味の稽古事として通う場合もあれば、離婚した女性が、「一人で生計を立てていくために、手に職をつけたい」と学びに来る場合もある。
その中でも、栗田さんが最も気がかりだったのは、高校を中退した生徒や不登校の生徒たちの「居場所」がないことだった。学校での勉強が追いつかず、運動が苦手など、落ちこぼれて自信をなくしてしまった生徒や人と交わりにくい生徒に、「もう一度学ぶ機会や、自分の力で何かを達成する喜びを感じられるチャンスを与えたい」という思いが募っていった。
というのも、学校や家庭で何らかの問題を抱えた生徒たちが、興味のあるファッション分野では積極的に学ぶ姿勢を見せたり、時間はかかるが、丁寧に美しく「まつり縫い」ができたりすることを発見したからだ。
小さな「できる」体験を積み重ねていくことで、目を輝かせ、少しずつ自信を取り戻していく姿を何度も目の当たりにし、「学校のカリキュラムでは、一人ひとりの持っている才能を十分に引き出しきれていないのでは?」と疑問を感じたという。
やむを得ない理由から高校を中退したり、不登校になったりした人たちが、服飾を学んで手に職をつけ、高校の卒業資格を取得できたら「大学や専門学校への進学や、就職にも有利となり、進路の選択肢の幅がもっと広がって、将来に希望が持てるのではないか」との思いから、栗田さんは「ユニバーサル服飾高等学院」の開校を決意した。
「ユニバーサル服飾高等学院」は、将来的にファッション分野の仕事に就くことを目指すために、週5日登校してファッション全般を専門的にじっくり学べる「ファッション造形科」と、小物やバッグ作りから気軽に学べる週2日登校の「ファッション手芸科」の2コースがある。登校日数に幅を持たせることで、生徒への負担が軽くなり、自分のペースで高校生活を送れるのが魅力だ。
どちらのコースも、通信制の「明蓬館(めいほうかん)高等学校」(福岡県田川郡川崎町)との連携により、自宅や教室でパソコンを使い、インターネットで授業が受けられる。これにより、高校卒業資格取得に必要な74単位を習得することができる仕組みになっている。国の就学支援金を受け取ることで、最大96パーセント明蓬館高等学校の通信教育分の学費が免除されるなど、保護者の金銭的な負担を減らすための優遇措置もある。
また、同学院では中間・期末試験といった、いわゆるペーパーテストがないのも大きな特徴となっている。「テストで良い点数を取るための勉強では、その場限りで、結局社会に出ても役に立ちません。それよりも、日々積み重ねていくプロセスのほうが生徒の力になる」と栗田さん。成果物を提出することで、単位が習得できる独自の仕組みを作り上げた。
たとえば、ファッションショーの展示会・イベントの感想文を書いて提出することが「国語」の単位になり、製作物に必要となる布の寸法を計算し、経費をまとめるレポートを書いて提出することが、「数学」の単位になる。興味のあるファッションに関連づけて、教科勉強をすることで、「自ら学びたくなる気持ちを引き出したい」という栗田さんの願いが込められている。
学校の廊下には、栗田さんの教え子たちの作品が並ぶ。ワンピース、ユニバーサルファッション、ドレス、コスプレ衣装まで様々だ
同学院では、高校の卒業資格取得のほかにも、「洋裁技術検定」や「ファッションビジネス検定」、「色彩検定」などの資格取得に向けた学習も充実しており、生徒の希望によっては、フラワーアレンジメントや書道、語学、ピアノといった自由選択レッスンも別料金で受けることもできる。
また、栗田さんが代表を務めるボランティアグループ「糸の詩」を通じて、老人施設やリハビリ施設、障害を持つ人たちと交流を持ち、ファッションショーの手伝いをするなど、ボランティア活動にも参加できる。地域に関わりながら、総合的に「学びの場」を提供することで、生徒それぞれの個性や能力を引き出せるように工夫している。
同学院は、職員の6人すべてが中学校・高等学校の教諭一種免許状を取得しており、各コース合わせての募集定員が20人となっている。少人数制なので、生徒の心の機微を見守りながら、一人ひとりのペースで学習できるように、きめ細やかな対応が可能だ。
高校を中退した生徒や不登校の生徒に向けて栗田さんは、「どうせやってもダメだと思わずに、もう一回仕切り直してみましょうよ。のんびりと学び始めて、でもやり出したらきっと楽しくなるはず」と、明るく弾むような声で、心強い励ましの言葉を送った。栗田さんは、3年の学びを経て、この場所からたくましく巣立っていく生徒の生き生きとした姿をはっきりと見据えている。
「ユニバーサル服飾高等学院」では、入学の相談や見学の希望など電話やメールなどで随時受け付けている。
ユニバーサル服飾高等学院
住所:川崎市多摩区登戸2130-2
電話:044-900-8844
E-mail:info@uf-highschool.jp
▽ユニバーサル服飾高等学院ホームページ
http://uf-highschool.jp/
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