学校に行けなくなった子どもたちに寄り添い、登校再開に向けてさまざまな支援を続けている「NPO法人そだちサポートセンター」(小泉博所長、平塚市錦町5)で、11月19日14時から、不登校状態が続く中学生の保護者を対象に、高校の進路選択をテーマにした「子どものこと勉強会」が行われる。
1998年に設立され、2002年にNPO法人となった同センターは、不登校に悩む子どもたちを支援する組織の先駆け的存在。設立当初から、長年にわたって不登校の子どもやその保護者と深く関わり続けてきた臨床心理士で副所長の山下みち子さん(59)=大磯町=に登校ができなくなる原因や、子どもたちが抱えている悩み、登校再開までのサポート体制などについて聞いた。
所長の小泉博さん(77)=平塚市=は、同市内の中学校校長を務めた後に定年退職。その後も平塚市の青少年相談室に勤務するなど、悩む親子の声を聞く現場に長年かかわってきた。山下さんも、小泉さんと同じ職場で学校に行けなくなった子どもや親の話に親身に耳を傾けてきた。
2人は、相談だけで終わらせずに登校再開までの道のりをサポートできるような、「不登校回復支援機関」の必要性を強く感じ、学習を指導する教職経験者など数人のボランティアメンバーらと共に「そだちサポートセンター」を立ち上げたという。
これまでの13年間に142人が、学校生活を再開するためのカウンセリングやリハビリテーションを受け、約8割が学校へ戻っている。その実績から文部科学省や県教育委員会から研究を受託し、不登校児童の行動特徴調査や心のケアについてのアドバイスなどをまとめた冊子を多数手がけている。2008年には団体として神奈川県県民功労者表彰を受賞した。
副所長 臨床心理士の山下みち子さん「大丈夫、なんとかなるよ」と、子どもたちの揺れ動く心をやさしく受け止め、時には力強く背中を押してくれる母親のような存在だ=平塚市錦町=(そだちサポートセンター前)
不登校になって「そだちサポートセンター」に通所する子どもたちは、小学生から高校生まで年齢はさまざま。思春期に大きく変化する心と体に戸惑う13歳、14歳の多感で繊細な時期に、勉強についていけないなど学習のつまづきが重なり、学校に行く意欲を失ってしまうケースが多いという。
また、集団生活になじめないことや友達とのコミュニケーションがうまくとれないことが原因で、不登校になる子どもも。
このように、ささいなきっかけから子どもたちは「学校へ行きたくない」「体調が悪いから休みたい」と訴え始める。親としては「少しそっとしておけばそのうち学校へ行くだろう」「フリースクールもあるし無理強いしてまで学校へ行かせなくてもいいのではないか」と思っているうちに、不登校が長期化してしまうことも多いそうだ。
「不登校や引きこもりが長引くと、私たちのところへカウンセリングに来るまでが本当に大変です。電車に乗るのが怖く、雨が降っているのに2時間以上かけて歩いて来た子もいますし、ここに来ても何も話せないままずっとだまっている子もいる。保護者と一緒に忍耐強く子どもが心を開いてくれるのを待つ心構えが大事ですね」と、山下さん。
「そだちサポートセンター」では、電話で保護者からの相談を受け付けるほか、不登校児童本人が自分と向き合い、気持ちを整理するための心理カウンセリング、勉強のつまづきを確認する学習カウンセリングをまず最初に行う。
その後、教職経験者の講師と共に、学習の遅れを取り戻す個別の基礎学習支援や小・中集団によるレクリエーションなどのイベントを通じて、「わかった」「できた」「平気だった」という「成功体験」を重ねていく。そのプロセス自体が、実践的なリハビリテーションになっているという。
山下さんは、子どもたち一人ひとりと丁寧に向き合い、学校へ戻るための地道な支援を続けることで、子どもたちが再び自信を取り戻し、たくましく巣立っていく姿を何度も見てきた。「子どもたちは、やればできるんだ」という強い思いが、くじけそうな時に山下さんの心の支えになっているそうだ。
例えば、中学生活後半から同センターに通い始めた男子生徒。1年時から不登校になり学習への意欲もわかず、卒業後は働くことばかりを考えていたという。だが同センターで個別指導を受けながら学習を積み重ねていったところ、数学が得意なことがわかった。「だめでもいいから高校受験に挑戦してみなさいよ」と、山下さんが背中を押したことがきっかけで、県立の工業高校を受験し合格した。この男子生徒は、高校卒業後に就職も決定。今では自分に自信を持ち、立派に働いているそうだ。本人は「もし、センターで学ぶことがなかったら、高校にも行けず、ずっと引きこもっていたと思う」と中学当時のことを振り返っている。
「そだちサポートセンター」は、このように「読み・書き・計算」といった学習の基礎と、集団生活でのコミュニケーション能力を身に付けられる小・中学校の義務教育を「一度きりの大切な成長の機会」と据え、できるだけ早く学校へ戻すことを重視している。その成長機会を逸してしまうと、学校へ行かなかったことがコンプレックスになり、社会参加に臆してしまい、成人になっても自立できなくなる場合が多いからだ。
「そだちサポートセンター」を巣立っていった子どもたちから寄せられたアンケート用紙を、うれしそうにながめる山下さん。手書きの礼状が添えられているものもあり、山下さんの顔が見たいと手渡しで届けに来てくれた子もいるという
「今の教育は得意なことを伸ばす風潮が強いですが、本当は苦手なことを自分の力で乗り越えさせることも必要だと思います。不登校は、小さなつまづきをそのままにせずに、『やればできるんだ』という自信や喜びに変える大きなチャンスでもあるので、長引く前に早めに専門機関に相談してほしい」と呼びかけている。不登校に関する相談やイベントの参加申し込みは、電話で受け付けている。
▽リンク
そだちサポートセンター
お問い合わせ先:0463-25-6662
http://www.geocities.jp/sodachi_ssc/
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