がん体験者が「仲間」として患者によりそう支援を地域に
大和市立病院 地域医療連携室 地域医療連携科長 原田文隆さん


 大和市立病院 地域医療連携室 地域医療連携科長 原田文隆さん

大和市立病院 地域医療連携室 地域医療連携科長 原田文隆さん

神奈川県は、2010年7月から「NPO法人キャンサーネットジャパン」(東京都文京区)との協働事業で「がん患者とその家族をサポートする相談(ピアサポート)」を行っている。この事業は、「かながわボランタリー活動推進基金21協働事業負担金対象事業」として採択され、「JA神奈川県厚生連相模原協同病院」(相模原市緑区)、「KADOBEYA(カドベヤ)」(横浜市中区)、「横須賀共済病院」(横須賀市米が浜通)に続き、「大和市立病院」(大和市深見西)が4カ所目の開設となった。2011年に地域がん診療連携拠点病院の指定を目指して、「がん相談支援室」を開設。翌年9月から同協働事業に加わり、がん体験者(ピアサポーター)による相談を開始した大和市立病院地域医療連携室・地域医療連携科長の原田さんに、今までの経緯と今後について聞いた。

ピアサポーター導入の経緯

「大和市立病院」が地域がん診療連携拠点病院の指定を目指し、「がん相談支援室」を開設したのは、2011年9月のこと。看護師の髙橋さん、医療ソーシャルワーカーの小峰さんを担当スタッフとしてスタートした。その後、五十嵐俊久病院長が「横須賀共済病院」のピアサポート事業を紹介する記事を目にし、同院でも導入を検討することを、地域医療連携室の原田さんに指示した。
インターネットなどで調べた結果、がん患者を支援する団体「NPO法人キャンサーネットジャパン(以下、CNJ)」にたどり着き、連絡を取った。「当院では、ピアサポーターを独自で雇用することを検討していたが、CNJが神奈川県との協働事業でピアサポーターを各施設へ派遣していることを知りました。そして、同事業に参画することが決まり、2012年9月から毎週金曜日の10時から14時30分、ピアサポーター1名が『がん相談支援室』に派遣されることになった」と原田さん。

そもそもピア(peer)とは、英語で「仲間」。ピアサポートは、同じような境遇や体験を持つ人同士が助け合うことを意味する。同院に勤務するピアサポーターの女性・Aさんもがん経験者だ。6年前に着替え中に偶然気付き、病院の検査で乳がんの告知を受けた。「自分の病気をインターネットで調べたが、膨大な情報量と玉石混淆の情報に戸惑いました。情報を見極める必要性を強く感じたことと、闘病仲間が天に召され、生かされている私にできることは何だろう」とCNJが主催する「乳がん体験者コーディネーター」講座に参加し、資格を取得した。
「乳がん体験者コーディネーター」とは、乳がん体験者自身またはその家族が、乳がんになった人が直面する問題をともに考え、解決に導く既存の信頼性の高い情報にアクセスし提供できる人材。Aさんはその講座を受けたことで、科学的根拠に基づく最新のがん情報を選ぶ知識を得たという。

がん相談支援室」担当スタッフ 看護師の髙橋さん(左)、医療ソーシャルワーカーの小峰さん(右)

がん相談支援室」担当スタッフ看護師の髙橋さん(左)、医療ソーシャルワーカーの小峰さん(右)

体験者として支え合える仲間

資格取得後は、同じく神奈川県とCNJの協働事業での派遣先となっているレンタルスペース「KADOBEYA」のピアサポーターとして、約1年間勤務してきた。今回、毎週金曜日は大和市立病院の担当となったが、今も月1回は「KADOBEYA」での活動も続けている。
ピアサポーターは、医療者ではないので、治療には踏み込めない。相談者に質問された時には「自分の体験談として話すよう心がけています」とAさん。がんの種類が違うと治療法も違うが、副作用など治療のつらさや抱える不安はがん患者共通の悩みであると思うという。「相談者が困っているときに、『こんな情報があるので、どうですか?』と提案することはありますが、押し付けることはしません」。不安や痛みに苦しむ相談者の気持ちに寄り添い「不安な気持ちに共感し、『ひとりじゃない』ことをお伝えし、ともに考えるのが、私たちのピアサポーターだと思います」と、寄り添う心と冷静な役割認識を両立させている。
もちろん、自らも再発する不安も抱える「当事者」だ。「『KADOBEYA』で受け付けている電話相談で『あなたも頑張ってね』と声をかけられたことがありました。その時、「がん」という共通の体験を通して、お互いに支え合っていることに気付きました」と、双方向に温かい気持ちの交流が育まれているようだ。

がんという「共通体験」を生かす

毎週金曜日のピアサポーターへの相談は、平均2名程度。医療の専門的なことは看護師や医療ソーシャルワーカーが対応、ピアサポーターは『がんになったことで生じる問題』を一緒に整理して、専門家につなぐ。診察という短い時間で聞く医療者の話は、患者にとって難しい用語も多く、意味を理解しにくいこともある。
「2人に1人はがんになる」時代、逆に周囲へカミングアウトしないという人も増えている。Aさんもそのひとりだ。がん体験を明らかにしているのは、ピアサポーターとして活動している時だけ。だからこそ、相談者と話をする機会は、Aさんにとっても貴重な時間となっている。
大和市立病院は、相談者の相談内容によって、医師や看護師、薬剤師などそれぞれの専門職に相談できる体制をとっている。迅速にフォローし、連携してサポートできるのが強みだ。
またAさんのようなピアサポーターは、術後の段階にあわせた下着の選び方や化学療法で眉毛が抜ける前に写真撮影しておくと自然な眉を描きやすいなど、体験者にしかわからない具体的な生活の工夫を伝えているという。

大和市立病院 がん相談支援室では「がん体験者によるピアサポート」に面接相談ができることをチラシで呼びかけている

大和市立病院 がん相談支援室では「がん体験者によるピアサポート」に面接相談ができることをチラシで呼びかけている

誰でも気軽に通える「がん相談支援室」

大和市立病院では、「がん相談支援室」利用者の制限を設けていない。患者でなくとも、誰でも相談できる。同病院以外に受診している患者・家族からの相談も可能だ。
「『がん相談支援室』はまだ開設して約1年半。まだまだ利用者が少ないので、ポスター、チラシなど広報活動に力を入れ、より多くの方に知ってもらい利用してもらいたい」という。
今後は、手応えを感じつつある事業だけに「県との協働事業が終了しても当院ではピアサポーターを独自に雇用し継続していきたいと考えています。また、相談件数が増え週1日での対応が難しくなった場合は、ピアサポーターの人数や活動日を増やすことも考えている」(原田さん)と、同病院は前向きに検討を進めている。

【参考ページ】
大和市立病院内のピアサポートのご案内(神奈川県)
http://www.pref.kanagawa.jp/prs/p510346.html

▽リンク
大和市立病院
http://www.yamatocity-mh.jp/

NPO法人 キャンサーネットジャパン
http://www.cancernet.jp/

KADOBEYA
http://koto-lab.com/kadobeya/
※2013年4月より「KADOBEYA」は「ピアサポートよこはま」に名称変更し相談場所等が変わります。詳細は、キャンサーネットジャパンWebサイトhttp://www.cancernet.jp/peersupportでご確認ください。

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