湘南地域は、豊かな相模湾と温厚な季節の恵みにより、日本のみかんの経済的生産の北限とされている。神奈川県のみかんの生産量は国内10位(平成21年産みかん・農林水産省、収穫量統計)であり、県内で最も生産高の多い果実でもある。だが、海外から輸入される柑橘類増加やみかん離れによって、県内のみかん生産農家数はこの20年間で約半分以下に減少。みかん農家の廃業・休耕によって、農地が荒れ、景観や環境の悪化の原因となっている。
この課題を「湘南みかん」という特産物の生産・流通を通して解決しようと「みかんの木パートナーシッププログラム」が2010年から始まった。これは、みかん農家支援や湘南の山林の環境保全に消費者が関わりながら、「湘南みかん」育成に参加できるというプログラムだ。このプログラムを展開するNPO法人「湘南スタイル」理事長の藁品孝久さん(64)=茅ヶ崎市=に、この事業の特徴や目指すことについて聞いた。
湘南スタイル理事長 藁品孝久さん
「湘南スタイル」は2005年6月に設立された。茅ヶ崎市を拠点に湘南地域の活性化を目的に、住民参加を核にしながら、地域農業サポートや環境保全活動、地元産品を生かした商品開発など、さまざまな事業を展開している。
理事長の藁品さんは「湘南スタイル」を立ち上げた理由について「地域の人に喜んでもらう仕組みを作りたかったから」と語る。「会社を立ち上げるときにはおそらく誰もが『人の役に立ちたい』と思って立ち上げると思うが、利潤を追求する間にいつのまにか当初の目的を忘れてしまう。私もそうでした。だから60歳を前に、もう一度原点に返ろうと思ったのです」。
藁品さんが「湘南みかん」に注目したのは、3年前。懇意にしていた神奈川県農業技術センター(平塚市上吉沢)から「大磯・二宮地域のみかん農家の窮状をなんとかできないだろうか?」と打診があったことがきっかけだ。実際に井上農園(中郡二宮町)にみかん狩りに行き、話を聞いたところ、後継者不足や収入の減少など、切実に困っている現状を知った。なんとか改善できる方法はないものかと、改善に向けたシステムを考え始めた。
北原農園(中郡二宮町)に実る「湘南みかん」。このくらい青いうちに実を摘む。
同時期に藁品さんは、湘南で食の地産地消を推進するため「ご当地グルメ」になりそうな素材を探していたという。その際「摘果(てきか)」という作業で、青いうちに摘み取ったみかんを、ポン酢に加工している地元企業があるという話を聞いた。「でも実際に調べてみると、加工する前の絞り汁やみかんそのものの方が、料理人をはじめとする消費者への需要が高かった。だったら『湘南みかん』自体を商品にすればよいのでは、と動き出した」と藁品さん。「青いみかん」を軸に、農家サポートと商品化という2つを結ぶ、同プログラムのコンセプトはそこから生まれた。
同プログラムの特徴は、これまで大部分が廃棄されていた「青いみかん」を「人と人をつなぐ商品」に生まれ変わらせた点だ。それまでは農家自身で食用とするほかは、そのまま地面に落として肥料としていた青いみかんを「青摘(あおつみ)みかん」と名付け、消費者に収穫してもらう「参加の機会」を増やす「ツール」として活用、さらにそのジュースや皮から出る油を加工・商品化し「特産品」として売り出そうと、発想を転換した。
青摘みかんの選別作業をする、JA湘南みかん選果場(中郡大礒町)で香りを確認する藁品さん
「みかんの木パートナーシッププログラム」は、2011年度の神奈川県環境農政局企画調整部かながわ農林水産ブランド戦略課と神奈川県農業技術センターとの共同事業となっており、参加者・農家・地域、関わっている人たちみなに喜んでもらえ、しかも環境にも地域経済にも貢献する、湘南みかんをまるごとサポートするシステム。参加者は、1口 31,500円で、みかんの花のお花見・青摘みかん収穫、搾汁(さくじゅう)体験・みかん狩りなどで、四季を通して湘南みかんを味わい、みかん農家の作業を体験することができる。この参加費は、複数人で負担してもよく、団体参加も可能だ。
北原農園で湘南みかんについて説明をする、オーナーの北原義晴(よしはる)さん
農家にとっては、このプログラムは継続的な出荷が予測できるため、みかん栽培を続ける意欲につながっている。「青摘みかん」を提供する大磯・二宮町の協力農家は21。後継者不足や消費量低下に悩まされ続けてきたみかん農家の北原義晴(よしはる)さんは、直接消費者と交流する機会が増えたことで、自信を取り戻しつつある。「湘南みかんは、他のみかんとは違い、独自に品種改良を加え、甘いだけでなく、酸っぱさもちゃんと味わえる昔ながらのみかん。ここのみかんを食べたら、他のみかんは食べられないと言ってくれる人もいる。実際にみかん園に足を運び、食べてもらうことで、そういう人が増えてくれたらうれしいし、その機会を作ってくれる湘南スタイルさんには感謝しています」と、やる気を見せている。
地域にとっては「雇用機会」「地域活性化」「環境保全」にもつながっている。ジュース加工には、社会福祉法人「進和学園」(平塚市万田)の各施設が協力。在校生約20人の雇用を生み出している。同学園、進話職業センター施設長、菊池孝さんは「生徒たちが働く機会を得られるこのプログラムにはとても感謝しています」と話し、このプロジェクトが障害者の社会参加の機会を広げた点を評価している。
またこのプロジェクトは、二宮町のまちづくり団体「しお風」(代表・神保智子さん)の協力も得ている。「しお風」は2010年秋より「湘南みかんだより」を季節ごとに発行、みかん狩りなどのイベント報告や、青摘みかんのレシピを紹介している。さらに、二宮町内の飲食店に青摘みかんを使ったレシピ開発を依頼。協力店舗は二宮町だけで16店舗にもなった。「青摘みかんロール」や「青摘みかん酢飯」など、さわやかな酸味を生かしたユニークなオリジナルレシピが考案されている。これらのレシピは、年に1回開催される青摘みかんイベントや二宮町内の3つの店舗で味わうことができ、消費者の好評を得ているという。学校・商店などと連携し、コミュニティーに根ざしたプログラムが着実に根付きつつある。
今後は「このプロジェクトを持続させていくことを通して『環境を守ること』と『障がい者雇用を拡げること』を大事にしていきたい」と藁品さんは話す。ジュースを絞る機械や製油機をできるだけ早く導入して、現在県外に外注している作業を地域内の雇用でまかなえるようにするのが直近の目標だ。そのためにもパートナーとなる連携団体を増やさなければならない。現在、参加団体は50を数える。今後は地元だけでなく各地に広げていくのが目標だ。「わたしたちは『湘南みかん』をきっかけに、コミュニティーを活性化するためのつながりを作り続けたいと考えています。これからも、様々なことに挑戦しますよ!」と藁品さんは力強く話している。
これから「みかんの木パートナーシッププログラム」に参加すると、11月~12月の日曜日のいずれかにみかん狩りに参加できるほか、収穫した「湘南青摘みかん」5キロが11月に、青摘みかんドレッシングなど「青摘みかん」の加工商品3種類が12月初旬に宅配される。(詳細はウェブサイトで確認)「このプログラムは参加農家の数が限られているため、参加者も限定となっています。参加希望の場合は是非早めの申し込みを!」と藁品さん。参加者が時間やコストを負担しながらも、コミュニティー活性化を楽しみながらサポートもできるこのプログラムは、これからの新しい地域貢献の形として注目だ。
「みかんの木パートナーシッププログラム」/湘南スタイルホームページより
▽リンク
湘南スタイル shonan style ホームページ
http://www.shonan-style.jp/
進和学園 – ホームページ
http://www.shinwa-gakuen.or.jp/
まちづくり工房「しお風」
http://www.scn-net.ne.jp/~shiokaze/
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